新しい学校に向けた学校改革辞典
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校は「教える」組織から「学ぶ」組織に変わらなければならない。
そうしなければ、子どもたちはまだ見ぬ未来の課題に立ち向かって生きる力を身につけることはできない。(3ページより)
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これからの「学校格差」
●学校改革大全
本書は900ページの大著です。大著ですがテーマはたった1つ、「学校改革」です。本書は先進国の学校で進む学校改革の課題、改革事例を67人の専門家が集めた学校改革大全です。

●どうやったら「自分で学ぶ人間ができるのか?」
学校は、未来を担う子どもが社会に出る準備をする場所です。その学校に、今世界中の識者が口を揃えて言うのが、「教える」場所をやめて、「学ぶ人間を作る」場所に変われ、ということです。そうしなければ、子どもは大人になった時に、変化の速い社会に適応できず、社会は停滞し、格差が進行し、世の中が悪くなる、と指摘しています。
 
日本でも経済成長が停滞し、ダブルワーク、Web化の進行、格差の進行など、生きる環境は年々厳しく、多様で、複雑になっています。ですが「学ぶ学校」を出た子どもなら、変化の多い社会でも、常に新しい技術や環境を学び、活躍できます。「学ぶ人間を作る」場所に向けて、世界の学校が取りくみ始めています。学校は「学習する学校」に生まれ変わった学校から、成功し始めると言われています。

●新しい親の役割
その中で、親の役割は「学ぶ学校」を選ぶこと、そして学校を「学ぶ組織」にするためのコミュニティへの貢献です。まず、学校選びに必要な考え方は、これまでのように教科をバラバラに教えて、その理解度を紙のテストだけでチェックすることに優れた学校ではなく、物事のつながりを理解し、現実の解決策を考える力を、教員や関係者が持っている学校かどうかです。そして、学校が変わるための課題のすそ野は、教員や行政だけでなく、生徒、保護者にも広がっています。親自身も学び、地域やコミュニティに貢献することが必要です。
 
900ページの大著ですが、全部を読むというよりは、
「教えるんじゃなくて、学ぶ教員ってどんな人?」
「親だけど、コミュニティにどう貢献すればいいの?」
という疑問を、辞書で引くように使えば、学校選びと親の役割を考えるヒントを見つけられるでしょう。
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そもそも今の教育のなにが問題なのか
今の教育の原型は工業化が始まった100年以上前に誕生しました。
同年齢の子どもたちを同じ場所に集め、同じ内容を一斉に教える方法は、同じ仕事を一斉に行う工業全盛の時代には必要な方法でした。ですが、時代はすでに工業化を終え、これからの時代は「これまでにない」環境や社会のありかたに直面すると考えられています。
 
また、インターネットやスマートフォンなど想像もしていなかったテクノロジーが次々登場し、現代社会はすでに様々な状況に対応する柔軟さや問題解決力が求められています。今後はドローンやAIなど、新しいツールもどんどん誕生し、それらを使いこなす必要があります。たった10年後でも、社会は今よりもさらに激しい変化があると言われています。社会も生活もどんどん変わる中、教育は100年前とほとんど変わっていないこと、これが問題なのです。
 
世界中で教育機会の不平等が、個人の努力では克服できない経済格差を生み、社会への不満が高まっています。この危機を打破し、解決するためには、学校が今後の社会に対応できる人間を生み出していく場所に変わる必要があります。100年前の「教える学校」から、現代の「学習する学校」への改革が世界中で必要とされているのです。
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「教える学校」と「学習する学校」をもっと詳しく
「学習する学校」とは、文字通り子どもたちが自分たちの興味や関心、そして学習スピードに合わせて自主的に学んでいく学校のことです。個別学習、探求学習、協同学習が完全実践された場所です。

反対に「教える学校」とは、これまでのように子どもたちが無関心でも、教員が教壇に立ってひとりで延々と教科書を読みあげるような場所のことです。学校はどの国でも、同じ年齢の人間を集めて、隔絶した場所で管理し、同じ内容を教える、という改めて考えると特殊な場所です。そして特殊で、社会から隔絶されているので、改革が遅れがちな組織でもあります。「学習する組織」に変わっていけるかどうかで、社会の現代化が測られるとも言われているほど、学校は子どもや親以外にも重要な問題なのです。


2
「学習する学校」のための第一歩は「組織文化」を知ること
では、学校を変えるためには何が大切でしょうか?
学校改革というと、校則や教科が思い浮かびますが、本書では、まず「組織文化」に注目するように言います。組織文化とは、人々が何を基準に判断しているか行動しているか、善悪ではなく、行動の元となる基準のことです。善悪や優劣を評価する理念ではありません。
 
文化とは遺伝子のようなもので、複製され伝達し、無意識に人々の行動を決めていくものです。たとえば、「自治」という文化の組織は、良くも悪くも、生活に関わる決め事は自分たちで議論し決定する責任を持ちます。他方で「規律」という文化の組織なら、良くも悪くも伝統的に守ってきたルールを頼みに、決め事を行います。これはどの文化が正しい、というわけではありません。ただ、組織文化が強い組織は自分たちが大事にしている基準に沿って、問題を解決しようとします。反対に組織文化の劣化した組織は結束できないので、諍いが絶えず、問題が放置されがちです。
 
学校を新しい形にするには、最初に人々の「現状」を把握する必要があるといいます。教員や管理職、そして生徒など、まずは彼らが無意識にどのように関わりあっているのか、「組織文化」を観察するのが始まりです。なにか問題が起きたときにそれを他人のせいにしていないか、自分以外のアイディアもちゃんと検討しているか、といったことを観察しましょう。
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新しい学校のための指針「5つのディシプリン」(p115)
 新しい学校を作るためになにかがしたいけど、どうしたらいいのかわからない」という人に本書では「5つのディシプリン」から始めることを薦めています。
 
「5つのディシプリン」(p115)
・自己マスタリー
・共有ビジョン
・メンタル・モデル
・チーム学習
・システム思考
 
5つのディシプリンを組織に浸透させていくと、直接知識を教えなくても、子どもたちから新しい能力が自然に引き出される組織になれます。時間はかかりますが、学校改革者はこの5つを学ぶところから始めてください。



生涯学習者になるための「5つのディシプリン」を取り入れる方法

5つのディシプリンを生活に取り入れる方法    p240より


240ページには「5つのディシプリン」を生活に取り入れる方法が紹介されています。教育の場だけではなく、人が生涯をかけて自分の能力を育てるために大切なアイデアです。5つのディシプリンを使って自分の願望や達成したいビジョンをはっきりさせることで、人生に対して受け身ではなくなり、自分の生きる道や人生を見つめられるようになります。


3
「学習する学校」の基本単位は「学習する教室」
「学習する学校」は「学習する教室」が集まってできる組織です。「学習する教室」のイメージが広がりやすいように、本書ではたくさんの教育者や作家が「学習する教室」についてイメージ豊かに描写しています。
 
この段階では、そんな理想の教室が実現可能かどうか、現実的かどうか、という可能性を考えずにイメージを広げていくことが必要です。これらの色々な理想例を見ていくうちに、読者もなにか自分のアイディアをうまく膨らませられるものに出会えるはずです。
 
組織文化、学びの原則、理想の教室のイメージができてきたところから、「学習する教室、学校」を作る歩みが始まります。気の長いことと思われがちですが、やはり学校を変革するのは容易ではありません。問題や困難にぶつかるたびに立ち戻れる理想図を作ることが重要です。
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教員の基本姿勢と具体的戦略
教える教室を「学習する教室」に変える中で、本書では教員の役割の重要性を説いています。これまでのような画一的な学習では、たくさんの子どもたちに同じことを教え、平均という概念で評価を行い、「できる子とできない子」を選別し、どうしてもできない子は「学習障害」と切り捨てるのが教員の仕事でした。
ですが「学習する教室」での教員の仕事は1人1人に合わせた教育を行う「すべての子どもが学べる」場所づくりです。まず、教員に必要な姿勢と戦略は、「子どもへの尊敬」と、子どもへの「気づき」を得やすくするための教育センス磨きです。気づきは特に大切です。本書ではセンスを磨くためには、教員はがむしゃらに子どもたちについて知ろうとせず、子どもと一緒にできることを見つけ、一緒にやって上げること、すると、子どもから伝えてくれるようになる、その歩み寄りが「学習する教室」での教員の在り方だと説いています。



「子どもへの尊敬」を持つ方法

子どもの尊厳    p268より


「学習する教室」とその未来について考えるとき、「子どもの尊厳」を考え直す必要があります。学校や親の中に、子どもが憎い、と思う人は少ないはずですから、尊厳を持つのは簡単、と思われがちです。しかし「学習する教室」の実現とゴールは、コミュニティの問題解決の出発点となることです。子ども自身が、実際に行政官やコミュニティの一員として活動すると考えると、「子どもの尊厳」は、子どもが好き、というものだけでは不十分、と言います。この場合、「子どもの尊厳」は、子どもを一人の人間として、考え直すことが必要です。必要な考え方は、自分が子どもになにかするとき、できるだけ「これは子どもの尊厳を高めるか、それとも逆効果だろうか」と考えることと言います。



でも、ゲームばっかりやってる子どもに大人のように尊厳を向けられるのか?

「私たち子どもはその準備ができています」    851ページより


子どもに対して「彼らが夢中になるのはビデオゲームやメールのやり取り」だけだと勘ちがいしている大人はたくさんいます。ですが、私たちが思っている以上に子どもは世界の現状をわかっていて、気にかけています。
大人がそれにまったく耳に傾けずにいたら、やがてやる気をなくしてしまうのは当然でしょう。子どもがそういった発言をできる場になることが、今の学校がするべきことの1つです。子どもたちはそれぞれ自分の才能や関心に合わせて自由に学び、それによって得たもので発言できる。学校は今、そういう場になることを求められています。地域の課題や、家族の課題について、子どもと相談して解決してみる、そんなところから始めてみることが子どもの尊厳を発見することに繋がります。



親と教員は、保護者面談と声掛けを訓練すること

保護者面談を作りなおす    p388ページより


一見のんきな子どもに、大人が尊厳を向け、子どもにもコミュニティの一員としての自覚を芽生えさせるには、大人は声掛けの訓練が必要だと言います。親や教員の声掛けは、大人が思う以上に子どもの思い込みを作り出し、成長に影響を与えています。「声掛け」は今からでも訓練でき、効果の高い教育のツールだと、本書では言っています。
また、本書では「保護者面談」の見直しについて触れています。なぜ保護者面談かというと、教員と生徒、保護者と生徒は強いつながりがありますが、教員と保護者には繋がりななく、それを解消するのが保護者面談だからです。ですが、面談が上手に活用されていることは少なく、多くの場合は不満が残るようです。この本では、教員と保護者がそれぞれ面談を効果的なものにするための質問がたくさん紹介されています。「教員や保護者になにを聞いたらいいのかわからない」という人はぜひ参考にしてみてください。


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変革に立ちふさがる問題に対処する7つの方法
組織文化はどの組織にもある独自の「らしさ」です。文化を強化しつつ「学習する学校」に変えるためには、組織文化の本質を見極めつつ、劣化した文化を改善していく活動が必要です。ですが、改善には様々な問題が立ちふさがります。
 
多くの教員たちは問題に直面して諦めがちです。「苦難はしていることの効果が出てきた証拠でもある」と著者が述べているように、簡単にはいきません。本書ではその問題に対処する7つの理念を提唱しています。
 
理念は組織がどうあるべきかを定義するものです。あるべき理念を忘れずにいることで、関係者が自己評価を行うことができます。自己評価ができると何ができるかを再確認でき、また改善行動に移れます
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理想のビジョンを共有することからはじめよう

共有ビジョンづくりのプロセス    p510


今の学校を、どんな場所に変えたいか、というビジョンを最初にしっかりと固めて共有します。ビジョンとはその名の通り「映像」です。抽象的な言葉ではなく、教員、保護者、生徒、学校スタッフが一年間を通して、どんな行動をして、どんな状態になり、どう成長するのか、具体的な映像を描写していくことがビジョン作りです。それが、改革者が行動するための拠りどころになります。そのビジョンを達成するためにはどんな組織であるべきか、その組織を維持するためには何をすべきなのか、順々に決めていくことができます。また、一年の終わりには振り返りの時間を作り、学校のビジョンをもう一度ともに見つめ直します。設定した目標が達成できたかなどに加え、新しく発見した課題や目標をみんなで共有します。大切なビジョンのポイントは抽象性ではなく「具体性」です。



シナリオ作りを行おう

未来について知っていることとわからないことの区別をつける    542ページより


変化の速い未来は、起こることを予測するのが難しい時代になります。識者、企業、政府も様々に予測を立てますが、的中率は10~20%と言います。では未来を予測するのは無駄なのでしょうか?いえ、無駄ではありません。そもそも人間は想像する生き物なので、予測なしに生きていくことはできません。本書では、未来を推測してできるだけの対策を立てるために、「シナリオづくり」という方法を紹介しています。「シナリオづくり」はビジネスやエンターテインメントで使われていることが多いのですが、実は学校のような場所にこそ向いていると言います。また、多くの資金や事前の研修もほとんど必要ありません。やることは2つです。
 
・未来について、分かっていることと、分からないことに分けること
・常識に捕らわれずに区別・判断すること
 
この2つを行うことで、組織の「リスク」が見えてきます。
本書が言う注意点は1つです。時間のかかる作業なので、学校で行う場合は、数週間に1回のミーティングで、約1ヶ月以上の時間をかけて開くように薦めています。



学校が陥る問題の対処法

「成功者の成功」と「問題のすり替わり」    p560-566


ビジョンを作り、シナリオでリスクを分析しても、学校という場所でなかなか避けられない問題があります。本書では以下の2つが大きいと指摘しています。
 
・裕福で勉強のできる子だけが成功する。
・問題が起きたとき、応急処置によって状況が悪化する。
 
「教える組織」なら、優劣をつけて、選抜を目的とする場合もあります。また、教員も人間なので、裕福で勉強ができる子に期待が集まるのはしかたないという面もあります。しかし、「学習する組織」ならそれは失敗です。理解のスピードがゆっくりな子、座学以外に才能のある子を置き去りにすることで、子どもたちが「結局は成功者だけが成功する」と思いこんでしまうからです。そういう組織文化が浸透すると、できることを探し、学びを共有する「学習する学校」という組織には遠ざかります。
 もう1つの問題は「教員の場当たり的な対応」です。これも「教える組織」なら普通かもしれません。しかし、「学習する組織」の対応は常に根本や原則に働きかけているものでないと、組織文化を傷つけてしまいます。問題の根本解決のノウハウや経験が足りない教員が、一時的に問題に対処して状況が悪化することを放置してはいけません。「教える学校」は同じことを一斉に教えるので、人間を工業的に観るようになります。しかし、「学習する学校」は人間本来の素質を発揮できる場所にしなければなりません。したがって、教員は常に根本と本質に根ざし、忍耐と観察と専門的な知識を持つ必要があります。しかし、教員のトレーニングが足りないときに、効果のない外部研修だけで済ませようとすると、解決にはならないばかりか、問題が教員にあるにもかかわらず、生徒側に移ってしまい、最終的に当事者たちは自分たちで解決することもやめてしまいます。この「問題のすり替わり」が起こりがちです



生徒と先生、学校の主役の自己意識を変える

子どもたちや自分自身についての見方を変える   607ページより


学校が変わると、主役である生徒と先生の自分自身の観方、つまり「生徒観」「先生観」が変わっていきます。生徒は自分自身を「教えられる存在」から「学ぶ存在」に、先生は「教える存在」から「学びを支える存在」に変わっていくのです。特に、生徒の学びを支える教員の自己意識改革はとても重要です。ですが、これまでに行われてきたような表面的な研修や、効果の続かない内容では意味がありません。
本書では、教員の研修にも「5つのディシプリン」を使うことを著者は勧めています。
・メンタル・モデル
・自己マスタリー
・チーム学習
・共有ビジョン
・システム思考
とくに「メンタル・モデル」や「自己マスタリー」の研修では、子どもとその学びのありかたを深く学びます。子どもたちを規律で管理するより、まずは教員が先に変わるべき、と認識することが大事です



リーダーとなる校長先生に必要な新しいリーダーシップ要素「コーチング」

教育長に必要な、教育における新しいリーダーシップ    p627より


生徒たちが自発的に学ぶ学校には、生徒や教員を管理せずに導くことが大切です。権力のある人間が上から指導する管理型のリーダーシップはむしろ不要になります。
 
ここでは、校長先生のような教育長に求められる新しいリーダーシップを、3つの段階に分けて説明しています。教員や学校委員会との人間関係をしっかりしたものにすること、授業のコーチング、そしてコミュニティのコーチングです。この3つの段階をとおし、教育長は自然に「管理する」ことをやめ、新しい試みに挑戦したり、学校の可能性を広げる活動を率いるようになります。



実践型、探求学習。コミュニティ、地域の問題を学びに結び付ける

コミュニティの諸問題と取り組む方法    p741より


 ここでは、学校のあるコミュニティが抱えるさまざまな問題と、それに取り組むための方法を3つのステップで紹介しています。その中でも、コミュニティ全体の学習能力を高めたいと考えているリーダーにお勧めです。
(1)活動の中心になれる、信頼できるボランティアを見つける。ほんの数人で大丈夫です。
(2)コミュニティの住民、教員、管理職などにインタビューをしてそれぞれの考えを深く理解する。
(3)コミュニティの人たちと交流しながら、少しずつ子どものためにできることを住民同士で続けていく。


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相互に依存できる社会のための学校
「学校がなんのためにあるのか」
この問いに対してはたくさんの見方があります。
本書では「直面するさまざまな困難に立ち向かうことができ、積極的に自分のいる社会に参加する大人にする場所」と定義しています。
 
100年前に誕生した「教える学校」の目的は、「平均」と「競争」によって有能な人間を選抜し、「成長」を続けることでした。その一方で、自然や資源や生態系への配慮を先送りにし、過剰な競争で起こる経済的な格差問題を次の世代に先送りするなど、持続性という面で無責任な点があったことは否めません。
 
「成長」は悪ではありません。今後も成長は必要です。しかし、これからの教育の目的は変わります。人口増加、資源枯渇、高齢化など、人類はこれまでになかった問題、無責任に先送りにしてきた問題に向き合う必要があります。いずれの問題も「成長」だけでは解決できず、未来までつづいていく「持続可能性」と、複雑な世界をまとめる「多様性」が必要です。教育は「平均」と「競争」から、「多様性」と「個別性」を目的に変化する必要があるのです
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多様化、複雑化する世界で必要な能力

世界はお互いにつながりあった関係で成り立っている    p468より


複雑になっていく世界の中で必要になっているのは、問題を分析するだけではなく、つながりで解決することです。ですが、学校はいまだに「英語は英語」「数学は数学」というようにバラバラに教えるだけで、他の科目との間のつながりはほとんど教えていません。それだけではなく、問題をどのように考えていけばいいかについては、各分野の大人のリーダーですらきちんと教わっていないのです。
今、世界には地球温暖化や経済崩壊などさまざまな問題がありますが、どれもすべて他の問題と関わりあっています。そのように横とのつながりを考えていく知性や柔軟さが、これからの時代には必要です。


レンジ 知識の「幅」が最強の武器になる
1.覚えておきたいこと
 
「学びたい」という欲求は、人間に本能的に備わっているものです。人はなにかを知ると、言葉で仲間に共有します。学びは個人的なものでありつつ、同時に社会的なものです。学びはそうやってコミュニティに広がっていきます。
「学習する学校」は、新しい概念ですが、その内容は、人間本来の欲求に沿った「学び」を実践し、そしてコミュニティに還元させる、という教育を原点回帰させる思想と実践活動です。私たち大人は、教育は「子ども」と「学校」に閉じられたものではなく、学校を含むコミュニティとともに広がるものであり、大人もその責任の一部を担っていることを覚えておきましょう。
 
 
2.子どもたちへ
 
もし学校の先生から「できない子」「教えてもむだ」といった否定的な評価や言葉を聞かされても、けっして「自分には価値がない」と思わないでください。たった1つの教科でダメだったり、一人の先生や友達の誰かに否定されたからと言って、あなたが他の分野でもダメだとか、その分野にまったく向かないということになりません。
そんなことよりも、自分の興味あることや知りたいことを大切にしましょう大人の中には、あなたたちが考えている「家族や、学校や、社会のためになにかしたい」という願いやアイディアを本気にしないかもしれません。ですが、そういう状況はやがて変わります。その気持ちを持ち続け、ほんとうに子どもを理解する大人と協力していきましょう。そして仲間を見つけて、自分の学びを繋げながら生きていってください。それが新しい未来を作ります。
 
 
3.家族で話してみよう
 
もしも学校の先生に「できない」「劣等生」と言われるとショックを受けるかもしれません。しかし、それを頭から信じず、まずはどんなものさしで先生がそう評価したのか、家族で冷静に考えてみることから始めましょう。
 
もしそれがこれまでのような画一的なテストでの点数や、宿題の出来だったときは、先生の言葉をけっして鵜吞みにしないように、家族で話しましょう。先生や学校の評価と家族の評価や言葉を同じにしない方が、多くの場合、家族は安心できる場所になります。
 
 
4.本書の弱点、分からないこと

とにかくページ数が多いので、「頭からすべて読もう」とは思わず、自分の知りたいことや悩みについて書かれているページから読む、辞書のような使い方をお勧めします。
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以上、『学習する学校』の紹介でした。
 
本書の使い方をもっと知りたい、という方向けに、
付録に、関連本の紹介や、本書の手引きも掲載しています。
良かったら見てみてください。

ありがとうございました。
それではさようなら。
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付録
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関連書籍
◎「学習する教室」をもっと簡単に知りたい
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ようこそ,一人ひとりをいかす教室へ: 「違い」を力に変える学び方・教え方
キャロル・アン トムリンソン (著)

1人1人の違いを大切にし、それを生徒それぞれの力にするための教室を作るための考えや実践方法について書かれています。本書と似たテーマですが、約250ページで読みやすいので、まずはこの本で問題の全体像をつかむのもお勧めです。
◎「学習する教室」の元ネタ
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EQ こころの知能指数
ダニエル・ゴールマン 著
 
最後の章に、生徒たちのEQ(こころの知能指数)を強化するための方法が書かれています。1998年に出版されたベストセラーですが、テーマの大切さは近年ますます増してきています。
また、本書の中でも引用文や参考書として何度か登場しており、著者の「学習する教室」の考えにも影響をあたえていることがわかります。教員や保護者だけでなく、自分の能力を高めたいと考えているすべての大人にお勧めです。
課題から読む逆引き読書」
Q. 「学習する学校」を作るために、最初に必要なことはなに?
要約2
Q. 子どもを理解するって具体的にどういうこと?なにをどう理解すればいい?
要約3
Q. 子どもに接するとき、教員や保護者は具体的にどんなことに気をつければいい?
→要約4
Q. そもそも今の教育のなにが問題なのかぴんとこない…
要約1
Q. 「学習する学校」では教員はいつもなにを心がければいい?
→要約3、要約4
Q. 「学習する学校」で、保護者と学校のつきあいかたはどう変わる?
→要約3
Q. これまでの管理型リーダーシップと、新しいリーダーシップの違いは
要約4
Q. 学習や学校の未来とは?これからどんな世界をめざしているのか
要約5
Q. 「学習する学校」のような新しい教育をするには、教員としてなにを学んでいけばいいのか悩んでいる友人に教えたい
Q. 自分の住むコミュニティのためにできることはある?
Q. 子どものことをほんとうに理解できているか、よく考えたい
 
Q. 宿題を価値のあるものにするには   p326
Q. 学習にほんとうに役に立つ評価はどんなもの?   p337
Q. 教員としての振り返りは、どんな観点から考えてみればいい?   p396
Q. 教室における共有ビジョンって?   p139
Q. システム思考ってなに?難しそうだけど、教育の中でふつうに使っていけるもの?    p410
Q. システム・リテラシーについてもっと深く知りたい    p449
Q. 「5つのディシプリン」について1つ1つもっとくわしく知りたい    p123
Q. 裕福で勉強のできる子だけが成功している気がします  p560
Q. 「一過性の教育研修」がいらない理由    p597
Q. 教育長としてやるべきことはなにかを知りたい    p623
Q. 「話し合い」の効用    p723
Q. 自分たちの組織がうまくできているかどうかチェックできる「なにか」が欲しい    p846
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書誌情報
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『学習する学校――子ども・教員・親・地域で未来の学びを創造する』
著者 ピーター・M・センゲ
英治出版 刊行|888ページ
 
 
目次
<スタート>
第1章 オリエンテーション
第2章 5つのディシプリン入門
 
<第1部 教室>
第3章 教室のドアを開ける
第4章 学習者を理解する
第5章 実践
第6章 生産的な会話
第7章 教室におけるシステム思考
 
<第2部 学校>
第8章 学校に入っていく
第9章 学校のビジョン
第10章 今の現実
第11章 能力開発
第12章 リーダーシップ
 
<第3部 コミュニティ>
第13章 コミュニティに入る
第14章 アイデンティティ
第15章 つながり
第16章 持続可能性"    
著者
ピーター・M・センゲ
(Peter Michael Senge)

マサチューセッツ工科大学経営大学院上級講師。教育やビジネス、そして医療など、世界中のリーダーたちとさまざまな分野で協力しあい、学習コミュニティづくりを通じて社会の課題解決に取り組んでいる。著書『学習する組織』は全世界で200万部を突破し、ハーバード・ビジネス・レビュー誌の「過去75年で最も影響力ある経営書の一つ」にも選ばれた。

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ブック紹介
『学習する学校
 
配信日:2023年3月29日
配 信:SHiORI
© SHiORI

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お断りしております。
 
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